中の人(品質管理担当者)の地味な仕事を振り返る
今の小学生って毎日宿題が出るんですね。
音読以外のプリント類はできれば学童でやってきてくれないかなあ、と仕事後の疲れた頭で宿題に付き合いながらぼんやり考える日々です。なぜか頑なに家でやりたがる我が家の新一年生。
さて、最近は初めましてのPM(プロジェクトマネージャー)さんから依頼を受けることや、初めてのクライアントさんの案件を依頼されることが続き、自分はこういうときどうしていたんだっけな・・・・・・と、翻訳会社で品質管理担当者をやっていた時代を思い出す機会が増えています。
きょうは当時、翻訳を外注するときに気をつけていたことや、新人さんトレーニングで話していたことを、思い出せる限り書いてみようと思います。
「中の人」ってこんなことをしているんだな、という参考になるでしょうか。
ちなみに担当は英語から日本語への翻訳案件で、ほとんどがCATツールを使うものでした。
基本
- 翻訳者に良い成果物を納めてもらうには、「翻訳以外のことに極力悩まず、翻訳作業に集中してもらうこと」がいちばんである。
翻訳発注の準備
- クライアントから受注したらまずPMと連携を取りつつどのような案件なのか確認する(文書の内容と用途、品質の要求レベル、対象読者、受注価格、CATツールの指定の有無、マッチレート、過去の経緯、等々)。あとで作業指示書に落とし込むことを考えながら。
- 参考資料を確認する(スタイルガイド、用語集、翻訳メモリ、等々)。ないと困るものがあったら営業担当を通してクライアントに請求する。
- 作業方針を考える(文体や表記、資料やツールの使い方、固有名詞やUIの処理方法、不明点の申し送り方法、等々)。あらかじめ決めておかないと後から質問が来てやり取りの時間がムダになる。
- 作業指示書を作る。初めて作業する人でも迷わず手を動かせるように書く。外に出す前に先輩に読んでもらおう。
- 作業指示書を作るのは「予想できる品質の成果物」を納品してもらうため。想定していないことが発生するリスクを極力減らして品質を安定させる。
- 翻訳者に渡す資料を準備する。クライアントから受け取ったものを何も考えずにそのまま全部渡さないように。翻訳時にどの程度役立つのか考えて取捨選択を。
- 「参考までに」と言って渡しても、絶対に読んでもらえない。そんなことを言うくらいなら渡さないほうがいい。
- 何十ページもある資料をそのまま渡すな。要点を別紙にまとめろ。
- 英日の翻訳者だからって英語の長大な資料をそのまま渡すな。資料に従ってほしければ要点を目立たせるか、日本語で別紙にまとめろ。
- 資料は実作業のときに使いやすい形式で渡せ。たとえばExcelの用語集はCATツール用の用語ベースに変換する。
- 適切な作業指示書を作って過不足のない資料を渡せるかどうかに、翻訳の品質は大きく左右される。
打診時
-
「いつもの翻訳者」に機械的に打診しないで。内容(得意分野)や品質要求に合った人を選ぶ。
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いつも同じ単価で発注しなければならないわけではない。難易度・手間によっては追加を検討する。
- 極小案件を「ワード単価×ワード数」でやるのは翻訳者にとって割りに合わないことはおぼえておく。
- たとえ数ワードの作業だったとしても絶対に無償でやらせない。信用・評判はすぐに落ちる。
- 打診のときにはできる限り多くの情報を出す。作業にかかる時間を翻訳者がなるべく正確に見積もれるように。
- 打診メールに書く納期は時刻まではっきりと。「明日中」のような書き方は危険。
- 一斉打診メールをむやみに使うな。
翻訳作業中
- 依頼が決まったら、予告した開始時刻を死守する。
- 分納させるのは確実に品質に悪影響がある。
- 作業中の問い合わせにはできるだけ早く回答。クライアントに確認が必要な場合など、すぐに答えられないときも「とりあえずどうしてほしいか」を返信。
- 作業中の問い合わせで、他の作業者にも周知が必要なものはすみやかに連絡。さかのぼって多くの修正が必要になる場合はチェック段階で対応することを検討。
- 納品されたら不備がないか確認して受領連絡をすみやかに。
フィードバック時
- フィードバックを送るときには翻訳者のミスなのか、客先の好みの修正なのかをはっきりさせて、今後の案件に適用してほしいものだけを伝える。
- チェック段階で改悪されてしまっている場合もあるのでフィードバックする前に品質管理担当者が自分でしっかりチェックする。
- エラーを指摘されると翻訳者は落ち込むもの。人間だもの。間違いばかり挙げるのではなく、まずは対応してくれたことへの感謝を伝える
案件終了後
- 作業全体を振り返りながら指示書を読み返し、次回のためにアップデートしておく。
自分も100%できていたわけでは到底ないし、特に単価関連はなかなか理想通りにはいかないものですが、このようなことを考えながら日々翻訳者さんに依頼していました。
仕様を確認して翻訳者さん向けの指示書を作る作業は好きでした。翻訳会社で品質管理担当者として働いた経験はフリーランス翻訳者としてやっていく上でとても貴重な財産になっています。翻訳者を目指している方は、一度「中の人」をやってみるのも良いのではないかと。得るものは多いと思います。上記のとおり、すごく地味~な仕事ですけどね。