翻訳かあさん、崖っぷちを走る

(更新お休み中)3歳保育園児と8歳小学生を育てながら働くフリーランス翻訳者のはなし。

せっかく取ったのに、ITソフトウェア翻訳士

もう4、5年前、まだ翻訳会社の社員だった頃のことですが、「ITソフトウェア翻訳士認定試験」という試験を受けて、1級に合格しました。

 

この試験、私が受けた1年後くらいに消滅したようです。歴代の合格者には事前連絡があった……ということはまったくなく、ある日気づいたら公式サイトが消えていたので、廃止になったのでしょう。

 

f:id:sasa3_neko:20210411104027j:plain

 

オンラインの試験で、試験時間は10時から15時の5時間、分量は700ワードくらいでした。子どもがまだ赤ちゃんだったので5時間の試験を自宅で受けるのは現実的ではなく(「ねーねーおかーしゃーん!!」が2分おきに発生するため)、夫ひとりで赤子を5時間外に連れ出せというのも酷だったので、ネットカフェにPCを持ち込んで受験しました。ランチはデリバリーしてもらって。

 

もうだいぶ記憶も薄れているのですが、日々の仕事でよくやっているような内容だったので、そんなに手こずることもなく、いつものとおり淡々と訳したら合格しました。

 

数ページのスタイルガイドに従って訳文を作成するというのも、実戦に近いな、という印象を受けました。原文にスペルミスがあったので(ミスの結果別の単語になっていて、知識がないと気づかないかも、という類のもの)、「あ、これ申し送りがちゃんとできるか見てるんだな」と思いましたね。

 

そもそもなぜこの試験を受けたのかというと、当時勤務していた翻訳会社がこの試験に協賛していて、1級合格者はトライアル免除で翻訳者として登録できたのですが、当時翻訳者採用担当だった先輩が「この試験の合格者は優秀な人が多いし、面接もやっているから安心」と言っていたので、私も力試しで受けてみようかと思ったのでした。元勤務先だけではなく、私が受験した時点では合計5つの翻訳会社にトライアルなしで登録できました。希望すれば取引先が一度に5社増えるということですね。

 

そうそう、この試験、面接があったんです。

 

一次試験の合格者は東京か大阪の翻訳会社で二次試験の面接がありました。冬の日曜日、豪雨のなか大阪の翻訳センター本社に出向いて面接を受けました。

 

面接の内容については事前にまったく情報がなかったので、「ここはどういう解釈でこう訳したのですか?」などと詰問されたらどうしよう、とドキドキしていましたが、訳文への突っ込みはなく、試験についていくつか訊かれました(分量は多かったですか、どんな時間配分で訳しましたか、難易度はどうでしたか、など)。あとは、普段どんな翻訳をしているか、翻訳支援ツールは使えるか、フリーランスになる予定はあるか、などといったことを翻訳センターの品質管理の方と楽しくお話しして帰ってきました。

 

直接聞いたわけではないので断言はできませんが、「二次試験」といっても翻訳の能力を確認するのが目的ではなく、「たしかにこの人が受験した本人だよね」というのを確かめる意味合いが強いのではないかと感じました。あとは、きちんと受け答えができるまともな社会人なのかを見る……というところでしょうか。

 

そのときは「わざわざ面接までやるなんて念が入っているな」と思っただけでしたが、このところ業界で問題になっていた盛り盛りの履歴書だのトライアル問題共有だのといったモラルに反する事例を考えると、面接がある翻訳の試験というのは、現存していればなかなか貴重だったのではないでしょうか。オンライン試験なんて別人が受けていても分からないですが、面接があるというのは抑止力になるでしょうしね。

 

分野はかなり限定的ではありますがほんやく検定の情報処理よりもやさしかったので(あくまで私1人の印象ですが)勉強中の人でも手を出しやすかったのではないかと思いますし、なんといっても合格すればトライアルなしで翻訳会社に登録できるので、翻訳者志望の方々の永遠の悩み「実務経験がないと応募できない、応募して登録できなければ経験が積めない、どうすればいいの?」に対する1つの解決策になっていたはずなので、試験自体がなくなってしまったのは残念ですね。ま、受験者が少なかったんだろうなぁ……。

 

合格したときはまだ会社員だったので「トライアルなしで登録」の権利はすぐには使えませんでしたが、1年以上経って独立したときに一社だけ連絡を取ってみたら、ほんとうにそのまま登録してくれてすぐに発注がありました。

 

そういうわけで、万難を排して一次と二次を受験した試験が消滅してしまったのは合格者としては大変残念です。今後履歴書や名刺に書いても「なにその試験?でっち上げじゃないの?」と思われそうで困りますね。